ロボットが日本を救う 中山眞

著者は安川電機の元取締役会長です.
安川電機関連の本を探していてはじめに見つけたので読みました.

内容

将来,ロボット産業が少子高齢化,製造業空洞化,国際競争力の低下など日本が抱える諸問題の解決策となり得る,つまり「ロボットが日本を救う」と述べられています.
2006年発行なので紹介されているロボットは一昔前のものですが,産業用ロボットが発展していく過程は大変興味深いです.

安川電機の大ヒット製品の開発経緯も述べられています.
もともと「メカトロニクス」という言葉は安川電機の商標で,その後商標権を放棄して一般に使われるようになったとのことです.

ロボットは「役に立つ道具」であるべき

著者は人間にとってロボットは「役に立つ道具」であるべきだと主張しています.そのため,人間が親しみやすいデザインではなく機能面を重視したシンプルなデザインでも十分だとしています.
つまり,わざわざ人型にする必要はなく,そのロボットの任務を果たすことができればそれで良いということです.

安川電機が開発したロボット「スマートパル」を例に挙げてその理由を説明しています.スマートパルはテレビや冷蔵庫のような人間の生活をサポートする道具として位置づけられているため,極めてシンプルなデザインを採用しています.

人間にあまりにも似すぎていると,使う側の人間がロボットに過剰な期待を寄せてしまうかもしれません.このロボットは人間と違う存在であって,なおかつオモチャではなく道具として使うものだということを体現するには,このぐらいの外見がちょうどよいのではないかと思っています.
中山眞 ロボットが日本を救う p.158

とあり,機能性や実用性を重視して開発されたことがわかります.この考え方は私にとって新鮮でした.一般家庭で稼働するロボットは最終的に人間に近いデザインになると思っていました.

しかし,実用本位で考えればそのようなデザインは不要,むしろ人間がロボットに干渉するなどしてロボットの仕事を妨げる要因になると考えられます.
また,人間のような見た目をしていると倫理的な問題が発生しかねないので,道具として扱うことで法整備なども進めやすいのではないかと思います.

求められているロボットとは

著者のロボットに対する考え方は以下の一文に表れています.

ロボットは,人間にはできない仕事や辛い仕事を代わりにやってくれたり,人間の能力を維持向上したり,人間の手助けをすることで人間に幸せをもたらす存在でなければならないのです.
中山眞 ロボットが日本を救う p.111

そして,エンターテインメント向けのロボットよりも「家事ロボット」の開発に力を入れるべきだとしています.この考えには概ね賛成です.

エンタメロボットの研究者が東日本大震災以降,レスキューロボットにも取り組み始めたという話を聞いたことがあります.災害が多発し,情報が溢れ複雑化する社会で現在求められているのはまさに人間の役に立つ道具としてのロボットだと思います.ただ,ソニーのaiboのようにエンタメロボットは注目を集めやすく大ヒットする可能性を秘めています.
今後は人間の感性に作用するロボットへの需要も高まると考えられるため,優先度をつけるのは難しいと思います.

おわりに

専門用語には解説がついているので知識がない人でも読みやすくなっています.
産業用ロボットの開発過程が当事者の目線から書かれているので,ロボットに関わる人には特におすすめです.

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