未来に先回りする思考法 佐藤航陽

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はじめに

本書の著者は佐藤航陽(さとう かつあき)氏です.
同氏の著書「お金2.0」が非常に面白く,他の著書を探していたところ,この本を見つけました.

佐藤氏は大学在学中に起業し,8年後には東証マザーズへの上場を果たしています.現在は会長として会社の経営に携わっているようです.

概要

本書で述べられるのは未来を見通すための方法論です.特にテクノロジーの進化に焦点を当て,これからの社会がどのような道のりをたどるのかを予測しています.

未来を見通すためにはズバリ以下の3点が重要になります.

  1. 点ではなく線として捉える
  2. パターンを見抜く
  3. 原理に立ち返って考える

1. 点ではなく線として捉える

基本的に人は未来を見誤リます.
これは現在日本で2600万のユーザー数(2020年8月時点)を誇るfacebookに対して「日本人には実名で登録するSNSは流行らない」との声が多かったり,iPhoneにしても当初は「おサイフケータイが使えない」「赤外線機能がない」などの理由で流行らないとの見方が多かったことからも明らかです.

人々が未来を見誤る原因について著者は次のように述べています.

その原因は人々の「思考法」にあります。人は、今目の前で起きていることからしか将来のことを考えることができません。しかし、FacebookとiPhoneの普及を多くの人が予想できなかったように、現在の景色という「点」を見て考える未来予測はだいたいにおいて外れます。
佐藤航陽. 未来に先回りする思考法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.21-23). Kindle 版.

対して,未来に先回りできる一部の人は長い時間軸から社会の進化のパターンを見抜き,その流れを「線」として捉えることで意思決定をしているといいます.
つまり目の前の出来事だけを見て判断するのではなく,各要素の関係性を理解し全体の流れを掴むことで未来を見通すことが可能になります.

例としてGoogleの自動運転システム開発を紹介しています.一見,「検索エンジン」と「自動車」は全く異なる要素のように思えます.
しかし,インターネットの性質と「世界中の情報を整理して誰にでも利用可能にする」というgoogleのミッションを理解していれば,これらを線でつなぐことができます.

インターネットには様々なデバイスに宿ってネットワークに取り込んでいく性質があります.
Googleからすれば「自動車を通して情報を取り込み整理すること」は「検索エンジンを通してネットの情報を整理すること」の延長線上にあるのです.

本書ではこのように各要素を結んで「線」として捉えるための原理原則がまとめられています.

2. パターンを見抜く

事業のなかでアプリのデータからユーザーの行動パターンを解析した結果,次のことがわかったそうです.

使用している言語や属している文化がまったく異なるにも関わらず、ヘビーユーザーや離脱するユーザーのパターンはほとんど同じだったりします。
(中略)
人間の目で見るとなんの共通点もない事象も、データという形で分析してみると驚くほどシンプルな法則性に基づいています。人間は思っている以上にパターンの塊なのです。
佐藤航陽. 未来に先回りする思考法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.509). Kindle 版.

本書で紹介されているパターンの一部を以下に挙げます.

  • 目の前にある新しいサービスやプロダクトを否定する割には,まだ実現すらしていない新しいテクノロジーに過度に期待する.

  • あるシステムは、社会に浸透してしばらく時間が経つと「どんな必要性を満たすために生まれたのか」という目的の部分がかすんでしまい,そのシステム自体を維持することに目的がすり変わってしまう.
    例)自己増殖が目的化した資本,選挙や議会が重視されすぎた民主政治

  • 新しいテクノロジーの登場とともに一時期栄えた主義思想は必ず古くなる.

「確かに!」と共感できるものもあるのではないでしょうか?人間はパターンの塊で,今まで何度もこのようなパターンを繰り返しています.
したがって,パターンを見抜くことができれば次に何が起こるのかを予測することができるのです.

3. 原理に立ち返って考える

ここでの原理とは「社会が変化する原理」です.社会の変化の原動力は「必要性」です.
すべての社会システムは差し迫った「必要性」から生まれます.

イスラエルは人口800万人程度の小さい国ですが,ナスダックに上場する企業はアメリカの次に多く,第二のシリコンバレーと呼ばれています.

その背景には,中東の政治的な緊張感がありました.諸外国への影響を保ち続けなければ,国として危機に陥ってしまうのです.
自分たちの安全がいつ脅かされるかわからないという危機感がイノベーションを起こす動機となっていました.
イノベーションを起こすための「必要性」が切実に存在していたのです.

社会が変化するタイミングについて著者は以下のように述べています.

その「必要性」をより効率的に満たすことのできるテクノロジーが普及したとき、社会システムに変化が生じます。
佐藤航陽. 未来に先回りする思考法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.821-822). Kindle 版.

したがって,社会の変化を予測するためには次のようなアプローチを取ればよいのです.

  1. 各システムがどのような必要性を満たすために生まれたのか.
  2. その必要性をテクノロジーでより効率的に満たすことができないか.

「必要性」に焦点を当てて考えることで,自ずと次の展開が見えてきます.

おわりに

紹介した内容以外にも本書には
「テクノロジーの3つの本質」「国家vs多国籍企業」「先見の明があった中国」
など興味深いトピックが含まれています.

インターネットの普及で社会の変化が加速し,新型コロナの影響で先行きが不透明となるなか,未来を見通すなんて不可能だと思えるかもしれません.
しかし,人類はこれまでも疫病と戦ってきました.長期的な視点で見れば現在の状況も繰り返される「パターン」の一つなのでしょう.

悲観しすぎず,あくまで冷静に物事を分析することで見えてくるものがあると思います.本書はその時のヒントを与えてくれます.
コロナ禍で将来への不安を抱えている人にこそおすすめの一冊です.

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