「私たちはいま,どこにいるのか?」
2019年発売.著者は池上彰.
現代はテレビやインターネットで絶え間なく膨大な量のニュースが流れる.
不安や危機感を煽るようなものやセンセーショナルなものが話題になりがちだが,それらに振り回されてはいけない.
ときにはニュースを掘り下げて「私たちはいま,どこにいるのか?」を考えるべきだと主張する.
そのためには教養すなわち
- 時代が動いても変わらない普遍的な考え方
- 日々のニュースを捉え直す力
を身につける必要がある.
本書ではこの力を身につけることを目的として6つのテーマを取り上げ解説している.
- AIとビッグデータ
- キャッシュレス社会と仮想通貨
- 想像の共同体
- 地政学
- ポピュリズム
- 日本国憲法
2019年の著作であるが,解説されていることは今のニュースにもつながるものであり十分役立つ.
日々のニュースに対して興味を持ち深掘りするきっかけになる.
SNSに疲れた人へ
私は最近ほとんどのニュースをX(旧Twitter),はてなブックマーク,YouTubeで見ている.
はじめの方だけ見てあとはそこにぶら下がるコメントで「いいね」がたくさんついているものに目を通す.
情報の発信元や真偽を確かめず,多くの「いいね」がついているコメントが正解だと思って理解した気になっている.
新聞の電子版などを契約しているが,楽なほうに流れていった結果だ.
簡単に白黒つけられない話題に対して明確な答えを求めているのかもしれない.
これは間違った情報を信じてしまうリスクがあるのはもちろん,メンタルヘルス的にも悪影響がある.
戦争やジェンダー対立,自然災害や著名人の自殺などただでさえ気持ちが沈みやすい話題が多いなか,SNSを通して感情が増幅された意見を見ると,余計に気持ちの浮き沈みが激しくなる.
楽に情報を得ようとした結果,他人の意見に振り回され疲れてしまっている感じがする.
まさに本書冒頭にある「ニュースの表面だけをみて振り回されている状態」だ.
この状態から脱するためには,人を自由にする学問「リベラルアーツ」を学ぶべきだと著者は主張する.
リベラルアーツとは,ヨーロッパの大学で学問の基本とされた以下の7科目のことだ.
これを踏まえて著者は現代日本人に必要な科目は以下の7つだとしている.
- 宗教
- 宇宙
- 人類の旅路
- 人間と病気
- 経済学
- 歴史
- 日本と日本人
本書の出版後にはロシアがウクライナに軍事侵攻し,パレスチナでは武力衝突が起こった.
コロナ禍では疫病が普段の生活に与える影響を思い知らされた.
各国が宇宙開発を進め日本は世界で5番目に月面着陸に成功した.
これらの出来事を踏まえると著者が提案する科目は普遍的で,現在そしてこれからの社会を理解する上で必要なものだと思える.
とはいえどこから手をつけていいかわからない.そんな人におすすめできる一冊.
お金とは何か,ポピュリズム,想像の共同体などニュースを理解するためのキーワードをわかりやすく解説している.
上述した7科目は,いつか時間を取って学びたいと思っている人も多いだろう.
今こそSNSやニュースから一度距離をおいて,手をつけ始めるタイミングかもしれない.
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