すべてのクリエイターへ向けた応援歌「数分間のエールを」

Youtubeで公開されているMV制作シーンが素晴らしかった.

バーチャル空間で3Dオブジェクトをモデリングしたりイラストを描いたりして映像を作っていく.VRヘッドセットが普及すればこのスタイルが映像制作の常識になるのだろうか.

溢れ出るアイデアを少しずつ形にしていく過程や,試行錯誤の末「これだ!」と思えるものが生まれる瞬間が描かれており,何かを作っているときのワクワクやドキドキを体験できる.

「一日が短い,他の時間が鬱陶しい!」

夢中になって手を動かしているときの感情をよく表したセリフだと思う.

あらすじ

MV(ミュージックビデオ)制作に熱中する石川県の高校生,朝屋彼方(あさや かなた)は雨の日の夜,路上ライブをしている女性の姿に心を打たれる.翌日赴任してきた教師,織重 夕(おりえ ゆう)はそのミュージシャンだった.
彼方は彼女の曲でMVを作らせてくれと懇願するが――.

どこで止めてもきれいな絵

色使いや光の表現が巧みで,どの場面も非常に美しい.

まず印象的だったのは織重の路上ライブ.虹色にキラキラ光る雨が透明な傘の上を流れたり,地面で弾けたりするさまは幻想的で美しい.その中でギターをかき鳴らして吐き出すように歌う織重はなにか暗いものを抱えているように見える.彼方と同じくその姿に見入ってしまう.衝動的にカメラを回す気持ちもわかる.

3DCGでありながら主線のないイラストがそのまま動いているような,セルルックアニメーションが特徴的.たまにイラストに戻ったように動きや表情がコマ送りになる演出もあり面白い.

青空の公園,窓から光が差し込む教室,夕暮れの海辺,ディスプレイだけが光る暗い部屋,どのシーンを切り取っても一枚の絵として成立しそうなほど美しい.

すべてのクリエイターへエールを

創作活動をしている人はもちろん,今は離れている人にもグッと来るはず.特にイラストやCG,動画などを制作している人は共感できる部分が多いだろう.観たあとは描きかけの絵や書きかけのブログ,時間があるときに勉強しようと思ってたアニメ制作などをすぐにでもやりたくなるに違いない.

モノづくりの楽しさが表現されている一方で苦しみや挫折も描かれる.織重はミュージシャンを志していたが世間からは評価されず教員の道を選んだ.彼方の友人である外崎(とのさき)は美大を目指すほどの絵の実力があるが,表現したいものがないと悩んでいる.人によっては彼らの中の誰かに自分を重ねることもあるだろう.熱中できるものを見つけたばかりの彼方か,実力はあるのに描きたいものがわからない外崎か,夢をあきらめた織重か.

本作はどんな状況であれ創作活動に翻弄されるすべての人に,彼方が作るMVと同じようにエールを送るような作品である.

共感できる出来事や一部の人にとっては馴染み深いものがたくさん登場する.作ったものが評価されてチヤホヤされることを妄想したり,作った映像を友達からプロっぽいと褒められたり,投稿した動画への「私は好きだな」のコメントに喜ぶなど.また,BlenderやCLIP STUDIO PAINTなど3DCGやイラスト,音楽,動画制作で使われるソフトの画面がそのまま出てくる.これらによってさらに物語に没入しやすくなっていると思う.

創作の苦しみや葛藤を爽やかに歌ったフレデリックの主題歌「CYAN」もよかった.本作は映像制作チームHurray!(フレイ)による初の劇場アニメーションとのこと.同チームのコンセプトがダイレクトに表現されている作品だった.


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